腫瘍診療について
当院では腫瘍科診察に力を入れています。
まずは、腫瘍科診察のながれについてご説明します。
「しこり」を見つけたら
しこりを見つけたときに、すぐに「がんかも知れない!」と思ってしまうかもしれませんが、そうではなく、腫瘍でないことも多いのです。また、「これはただのイボだ」と思っていたものが、悪性の腫瘍であることも多々あります。したがって、まずは当院にご相談ください。
腫瘍ってな~に?
意外と知られていませんが、「腫瘍=がん」ではないのです。腫瘍とは「自律的な増殖をするようになった細胞の集団」を意味し、良性腫瘍と悪性腫瘍が含まれます。私たちが「がん」と呼ぶものは、「上皮系悪性腫瘍」のことです。
皮膚や粘膜、分泌腺など「上皮系組織」から発生した悪性腫瘍を「癌腫(がん)」といい、神経や血管、筋肉などの「間葉系組織」から発生した悪性腫瘍を「肉腫(にくしゅ)」といいます。したがって、「癌」も「肉腫」も悪性腫瘍であって、親戚のような関係です。
見た目で「がん」と分かりますか?
答えは「No」です。どんな優秀な腫瘍科医でも、見た目では判断してはいけません。「がん」と確定診断するためには、例外はありますが「病理組織診断」が必要です。病理組織診断とは、摘出した組織(腫瘍のかけら)をホルマリン固定し、ガラスにのせて標本を作製し、病理診断医が顕微鏡で評価する検査です。手術前に検査することもありますが、手術後には必ず実施します。
すぐに手術するのですか?
これも「No」です。腫瘍の種類によっては、手術が第一選択の治療法ではない場合があります。手術ではなく、「抗がん剤」や「放射線治療」が推奨される腫瘍もあるのです。では、「しこり」が見つかった場合の治療方法をご説明します。
腫瘍の診断と治療のながれ
大切なことが3つあります。
- 敵の正体を知ること
- 敵の勢力を知ること
- 我々の戦力を知ること
これらを考えずに治療を開始すると、悲しい結果を招いてしまう場合があります。
1.敵の正体を知ること
これは「腫瘍を的確に診断すること」です。敵=腫瘍が良性か悪性か分からなければ、戦いを開始できません。まず「しこり」を見つけた後にする検査として「細胞診」があります。細胞診とは、しこりに細い針を刺して腫瘍から細胞を採取して、顕微鏡で見る検査です。容易に実施でき、麻酔も必要ない検査で、ペットへの苦痛も最小限です。これによって、この「しこり」が腫瘍なのか?腫瘍であれば良性なのか悪性なのか?この腫瘍の由来はどこなのか?を判断します。非常に有益な検査で、この検査だけでも判断可能な腫瘍もありますが、あくまで確定診断ではありません。場合によっては、針よりも太い「Tru-cut針」を用いて、トコロテン状に組織を採取して病理検査を行い、手術前に「確定診断」を下す場合もあります。
2.敵の勢力を知ること
これは「腫瘍がどこまで広がっているのか」を判断することです。例えば、細胞診や病理検査で悪性腫瘍が疑われている場合、闇雲に手術をしてはいけません。もし、すでに全身へ転移していて、余命が1ヵ月とない場合に手術をすることは、無意味である場合もあるからです。腫瘍がどこまで広がっているかを診断するためには、「画像診断」が重要です。レントゲン検査や超音波検査、場合によってはCT検査やMRI検査が必要な場合もあります。これによって、局所での浸潤程度(腫瘍が発生した部位で、どこまで広がっているのか)や遠隔転移の有無(他の臓器やリンパ節に転移していないか)を判断します。
3.我々の戦力を知ること
上記2つを把握できた時点で、ほぼ治療方針が決定します。ただし、決定するには「我々の戦力」を知る必要があります。まずは「ペットの体調」です。非常に高齢であったり、体調が悪く麻酔や手術を乗り切るのが困難な状況では治療ができません。そのために、血液検査などで現在の体力を知る必要があります。もうひとつは、「コスト」です。治療法によっては多額の医療費がかかる場合があります。無理をしない治療も、愛するペットとその家族の為に重要なのです。最後は「病院の技術と医療機器」です。
知識や技術に自信を持っておりますが、特殊器具を用いる手術や放射線治療は当院では実施できません。その際には、高度医療施設をご紹介させて頂き、最大限のサポートをさせて頂きます。
これら3つをしっかりと把握して、ご家族と共に治療方法を選択させて頂きます。
ご理解いただけるまで、しっかりとご説明させて頂きますので、どうぞご安心ください。